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第1編
第1部  社会保障と国民生活
第3章  我が国の社会保障制度はどのような水準に到達しているか
第1節  高い水準に到達した保健・医療
2  安心できる医療サービス





2-1  医療提供体制の整備

(医療関係者の確保と医療機関等の量的整備)

 医療の充実を図るために,昭和20年代から,医師・歯科医師・看護婦等の医療関係者の養成確保と,医療施設及び病床の整備が積極的に進められてきた。

 医療関係者では,例えば,1996(平成8)年には,医師は総数で約24万人(人口10万対191人),看護婦等は総数で約93万人(人口10万対738人)と,1960(昭和35)年と比べてそれぞれ2.3倍,5.0倍に増加している(図3−1−7)。医療施設では,1996年には,総数で約15万7,000施設,うち病院が約9,500,診療所が約8万8,000,歯科診療所が約5万9,000であり,病院の病床数は,約166万床となっている(図3−1−8)

 1960年代に国民皆保険体制が確立し,その後,医療保険の給付率の引上げや,高額療養費制度の創設による医療費の負担軽減等が行われたことから,医療に対する国民の需要が急増し,それにあわせて,病院や病院病床数が急増していった。経済の高度成長期とほぼ同じように,昭和30年代から50年代までは,医療機関の量的拡大期であった。1955(昭和30)年から1985(昭和60)年までに,病院は約4,500増,病床数は約98万床増と,それぞれ30年間で約1.9倍,約2.9倍になっている。

 このように,医療提供体制が量的には整備されてきたが,高齢化の進展や疾病構造の変化,医学医術の進歩等に対応しつつ,医療資源の地域偏在の解消や病院・診療所の医療機関の連携,地域医療の充実等を図る観点から,1985年に医療法の改正が行われ,医療計画制度の導入等が行われた。医療計画は,医療資源を有効に活用し,その適正配置を図るとともに,医療関係施設間の機能分担と連係を図り,良質な地域医療の体系的な整備を推進することを目的としている。具体的には,一般病床については,都道府県の区域内に複数の2次医療圏を設定し,それぞれごとに「必要病床数」を設定して,病床の適正配置を行うこととなった。近年では,病床数全体の伸びには歯止めがかかり,漸減傾向にある。

図3-1-7 主な医療関係者の年次推移

図3-1-8 病床の種類別にみた病院の病床数の推移




2-2  医療サービスの向上

 医療従事者に対する資格制度の充実,大学等の養成機関の整備・拡充,卒後研修の実施等により,医療関係者の資質の向上と適正な確保を通じて,医療サービスの質・量両面にわたる向上が図られてきている。

 また,近年では,良質な医療が提供されるためには,インフォームド・コンセント(医療従事者による適切な説明と患者の理解に基づいた医療)という考え方のように,患者に対する情報提供が十分に行われ,患者と医療従事者との信頼関係を維持しながら,患者の選択が尊重されることの重要性が認識されてきている。このため,例えば,1997(平成9)年の医療法改正により,医師等が医療を提供するに当たっては,適切な説明を行い,医療を受ける者の理解を得るように努める旨の規定が設けられている。また,保険者による被保険者に対するサービスの充実を図る一環として,被保険者から保険者に対し,求めがあった場合の診療報酬請求明細書(レセプト)の開示を進めてきている。

 病院の療養環境の面では,個室化や食堂の配置,看護職員の配置などについて,改善が図られつつある。ただし,まだ取り組むべき課題も多い。


2-3  医療制度の長所

 我が国の医療制度について,利用者側からみた長所として,次の3点を挙げることができる。

    1)

    国民の誰もが,公平に医療サービスを受けることができること。
    2)

    一定の質が確保された医療を,比較的低い患者負担により受けることができること。
    3)

    患者が自由に医療機関を選択できること。

 このうち,1)及び2)については,医療提供体制の整備と国民皆保険体制の確立という医療保険制度の充実が背景にある。3)については,患者は基本的に医療機関を自由に選ぶことができ,どの医療機関でも受診が可能であるというフリーアクセスの仕組みをとっていることによる。

 このアクセスの良さに加えて,医療機関や病床も整備されたことから,現在では量的には患者の医療に対する需要をおおむね満たしているといえる。例えば,受療率をみると,図3−1−9のとおり,65歳未満の層では,1970(昭和45)年以降横ばいまたは減少傾向にある。65歳以上の高齢者でみても,外来は1975(昭和50)年頃まで,入院は1990(平成2)年頃までそれぞれ上昇を続けていたが,その後はおおむね横ばいまたは減少傾向となっている。これは,患者の受診の需要が満たされていることを示している。

 また,日本の医療サービスを表現する決まり文句として,しばしば「3時間待って3分診療」といわれる。しかし,この表現はやや誤解を招くものであり,実態は大分異なる。概して大病院の方が待ち時間が長い傾向にあるが,医療機関の量的整備や予約制の導入等により,実際の待ち時間や診察時間をみると,最も多いのは「30分未満の待ち時間」で「3分から10分診療」となっている(図3−1−10)

図3-1-9 年齢階級別にみた受療率(人口10万対)の年次推移

図3-1-10 病院の規模別にみた待ち時間(診察前),病院の規模別にみた診察時間




2-4  医療サービスに関する国際比較

 医療提供体制の量的側面について,OECDのデータを活用して国際比較をしてみよう。(注)

 我が国の人口千人当たりの医師数はやや少ないが,看護職員数は平均以上となっている(図3−1−11)。一方,病床数については,大変多くなっている。人口規模が2倍のアメリカと比較すると,全病床数で約1.6倍,人口千人当たりで比較すると3倍の量となっている(表3−1−12)。病床数が多いため,病床1床当たりの看護職員数は,他国と比較して少ない。ただし,徐々にではあるが,看護体制は改善されつつあり,一般病院100床当たりの看護職員の配置は,近年10年間で1.3倍に増加している。

 また,患者行動を比較すると,日本の外来受診率は大変高い。これは,日本の医療制度の長所として述べたように,患者が自由に医療機関を選択でき,どこの医療機関でも受診が可能であること(医療機関に対するアクセスがよいこと)を示している。

 一方,入院した場合の平均在院日数は国際的にみて長いといわれている。これは,病院機能や,入院医療のあり方,患者の入院行動等が他国と明らかに異なっていることを示唆している。他の国でもかつては30日を超えるところもあったが,近年はいずれも20日以下に減少している(図3−1−13)

 ただし,日本の場合は,半年を超えるような長期入院が全体の平均値を押し上げており,実際には20日台前半の数値の病院が多数となっている。なお,1年間に入院したことがある人の割合は小さいので,1人当たり入院日数(入院延べ日数を全人口で割った数値)をみると,差は小さくなる。

 全医療費に占める入院費の割合が他国よりも低いのは,我が国の医療機関においては外来収入のウエイトが大きいことを示している。


(注)国際比較の対象国は,サミット(主要国首脳会議)構成の7か国とスウェーデン及び韓国とする。なお,OECDのデータは,各国の制度の違いに起因する事項の不統一があるので,数値の大小から直ちに比較した制度の優劣を断定することは適当でなく,おおよその傾向として把握すべきものである。

図3-1-11 医師・看護婦数の国際比較

表3-1-12 病床数,患者行動及び医療施設の利用状況の国際比較

図3-1-13 平均在院日数の変化


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