年金制度の目的は,前に述べたとおり生活を脅かす各種の事故によつて失われた所得を補い,国民生活の安定を図ることである。したがつて,社会保険による年金制度では,あらかじめ,どのような場合(支給要件)に,どの程度の額(給付額)を年金として支給するかを,制度の趣旨に沿つて定めている。どの制度でも老齢(退職),障害,遺族の3種類の年金が制度の中心であるが,このほかに制度からの脱退に対する保険料の払い戻しである退職一時金(脱退手当金)や遺族一時金,軽い障害に対する見舞金的性格を持つ障害一時金等の給付が設けられている制度もある。各制度の支給要件や給付額は,それぞれの制度の沿革や対象者に応じて異なつている。その概要を老令(退職)年金にして示したのが第7-1表であるが特に著しい相違点は,遺族年金の支給要件であつて,厚生年金や船員保険では6か月以上の制度加入が要件となつているのに対して,長期勤続者優遇の色彩を残している各共済組合では,10年以上の加入という厳しい要件が課されている。又各種共済組合が,退職時又はそれにさき立つ数年間の俸給に比例する給付額であるのに対して,厚生年金と船員保険には均一の定額部分があり,報酬に比例する部分でも全期間の平均が計算の基礎に採用されている。

老令年金,退職年金を受けるために必要な資格期間(制度に加入していた期間)は,被用者年金では船員保険等を除き20年,国民年金では25年である。したがつて,職業を変えたために他の制度に移つた人達は,一つの制度で要求される資格を満たし得ないことになる。この問題を解決するために,国民年金制度が発足した昭和36年4月から通算年金の制度が設けられ,各制度の加入期間を合わせて20年(被用者年金のみ)又は25年(国民年金を含む。)に達すれば,各制度から加入期間に応じた年金が支給されることとなつた。
国民皆年金の実をあげるためには国民各層が年金制度に加入しているばかりでなく,老令に際して,必ず年金が支給される状態にしなければならない。これを実現するうえでの問題点が二つあつた。その一つは,制度の間を移動したために年金が受けられない者の問題であり,他の一つは,すでに高令であつて必要な資格期間を満たし得ない者の問題であつた。前者の解決が通算年金制度であり,後者の解決が福祉年金と各年金制度の老令(退職)年金受給資格期間の経過的短縮であつた。
国民年金制度では,拠出制年金とならんで福祉年金が設けられているが,これは,皆年金体制の発足に際してすでに老令,障害,死亡の事故により所得を失つている人達に対して全額国庫負担の年金を支給することを主な内容としている。また年金受給年令には達していないが,国民年金制度創設当初から被保険者となつても,受給資格期間を満たし得ない一定年令以上の人達のため,25年の期間を最短10年までに短縮する措置がとられた。国民年金以外の制度でも,すべて資格期間を経過的に短縮することとなり,これは通算年金にも適用されたため,36年4月に50歳をこえない者はすべて拠出制の年金を受けることができ,その他の高齢者の大部分は福祉年金を受けるという体制になつたのである。
制度の体系はこのように整備されたのであるが,現実の年金額は第7-2表のとおりきわめて低い。特に厚生年金,船員保険の場合には,戦後の急激なインフレ対策として,保険料も給付額も切り下げていたため,今なお発足当初の水準に戻つていない。このため,現在支給内容の大幅改善が準備検討されている。

年金制度の内容を,必要な場合に必要な年金額をという見地からながめてみると,現在最も大きい問題となつているのは,遺族年金の資格期間が長過ぎる制度があること,給付水準が低い制度があつて不均衡が生じていることであろう。