結核の療養は、特に長期を要する結果、疾病と貧困の悪循環は結核において特に顕著であるといってさし支えない。このことは、たとえば、生活保護法の医療扶助を開始された者のうち三二・五%は結核のためであり、しかもこのうちの四三・三%は入院している(昭和二八年六月調)という事実によっても察せられよう。
昭和二九年度における結核医療費は、第八五表に示すとおり約五九二億円の巨額に達し、国民総医療費中直接医療費(二、一三四億円)に対する割合は、二七・八%であり、この結核医療費のうち六〇・七%を占める三六〇億円は入院費であると推計される。

さらにその負担区分を大別すれば、社会保険が最も多く負担していて全体の五一%、次に公的負担が三一・五%、患者負担は一七・五%となっている。ところが、同年度の国民総医療費については、保険者負担分が四八・五%、患者負担分が三九・五%、公的負担分が一二・〇%となっており、この比率を見ると、結核の場合は患者負担がはるかに少なく、この分を公的負担が肩代りをしている計算となるのであって、これは、結核については、長期の療養を要し、かつ、医療費がきわめて高くつくことによるものと思われる。先に挙げた負担区分にいう患者負担分のうちには、公的負担または保険者負担に伴う一部自己負担が含まれており、それと完全自費患者の負担分との区分が明らかではないが、昭和三〇年七月の「患者調査」によれば、医療を受けている結核患者のうち、入院外については、被用者保険の被保険者は三四・七%、生活保護の被保護者は一一・一%を占めているのに、全額自費の者は七%にすぎず、これを入院について見るに、被保険者四一・七%、被保護者三四・〇%に比し、全額自費の者はわずかに三・一%でしかない。全額自費患者が特に軽症傾向を有するとは考えられないのみならず、このなかには、高額所得者に比しはるかに結核有病率の高い低額所得者が少なからず含まれていることを思えば、今挙げた数字は、医療費の重圧が、結核に関する徹底した療養を妨げている明らかに大きな原因の一つであることを示すものと言えよう。なお、昭和二九年における結核医療費中、国の負担している額は、約一三八億円と推計される。
ところで、さきに本章第一節において述べたように、わが国の国民総医療費は年々増嵩の一途をたどっているが、それには結核医療費の増大が一つの原因をなしているものと思われる。ことに、近年社会保険制度および公的扶助制度の財政にとって、結核が重大な意味を持っていることは、疑うことができない。たとえば、先に述べたとおり、政府管掌健康保険の医療給付費はここ数年来急激に増大しており、保険財政に大きな圧迫を加えていることは、周知の事実であるが、その医療給付費のうち結核に要する費用の占める割合は、最近特に大きくなって来ており、昭和三〇年度においては、三六・七%(被保険者の入院分については六五・九%)となっている。また、生活保護の医療扶助についてみるに、昭和二八年度における医療扶助費は、生活扶助費を上回って生活保護費全体のほぼ半ばを占めるに至り、以後その増嵩傾向は止まず、昭和三〇年度には、生活保護費の五一・四%(予算額)を占めているが、昭和二九年六月の調査によれば、その六四・五%(入院医療費については六九・七%)を結核が占めており、この割合はその前年に比し、いずれも大となっている。
結核医療費増大の原因としては、受診率の増加、化学療法の普及、エックス線検査および喀痰検査の普及、胸部外科手術の増加、病床の増加、入院料の改訂、特に完全看護・完全給食制度の新設などが挙げられるが、これらは、おおむね結核患者の治癒を促進するのに何らかの役割を果すものであると考えてよい以上、全体としてみれば、最近の結核医療費の増大は、国民保健にとってはプラスになっているといって、まずさし支えないであろう。しかしながら、健康保険や生活保護における医療費、特に近時著しい増嵩を示している入院費の相当部分を結核が占めている現状を見のがすわけには行かない。